
公害防止管理者の過去問|令和6年 公害総論 問12 問題と解説

問題12
ダイオキシン類に関する記述として、誤っているものはどれか。各選択肢にある略語は以下のとおりである。
- PCDD:ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン
- PCDF:ポリ塩化ジベンゾフラン
- PCB:ポリ塩化ビフェニル
- ベンゼン環2つが酸素で結合(酸素を介さないこともある)し、それに付加する塩素の数や位置などによって生じる異性体の数は、PCDD > PCDF > コプラナーPCBの順である。
- ダイオキシン類の排出量は、毒性等価係数を用いて算出した各異性体の毒性を足し合わせた毒性等量で表される。
- ダイオキシン類の2021(令和3)年の排出総量は、ダイオキシン類排出削減計画の目標量を下回っており、削減目標は達成されている。
- POPs(残留性有機汚染物質)条約には、PCDD等非意図的生成物の排出削減等が記載されている。
- 我が国のダイオキシン類削減計画の内容は、POPs条約に基づく国内実施計画に反映されている。
問題6の解答
正解は「1」です。
問題6の解説
この問題は、
- ダイオキシン類(PCDD・PCDF・コプラナーPCB)の異性体数の関係
- TEQ(毒性等量)による排出量表示
- 日本の排出削減計画の達成状況
- POPs条約と日本のダイオキシン類削減計画の関係
といった、ダイオキシン類まわりの「基本セット」をきちんと理解しているかを問う問題です。
各選択肢を順に確認しましょう。
選択肢1
ベンゼン環2つが酸素で結合(酸素を介さないこともある)し、それに付加する塩素の数や位置などによって生じる異性体の数は、PCDD > PCDF > コプラナーPCBの順である。
PCDD・PCDF・PCB の異性体数(コンジナー数)は、一般に次のように整理されています。
- PCDD(ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン)
→ 75種類 - PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)
→ 135種類 - PCB(ポリ塩化ビフェニル・全体)
→ 209種類
したがって、PCDD(75)< PCDF(135)< PCB(209)となり、選択肢1の「PCDD > PCDF > コプラナーPCB」という順序は、完全に逆向きです。
なお、コプラナーPCB(ダイオキシン様PCB)は PCB 209種類のうち「平面構造をとれる一部」のことで、異性体数は 12 あるいは 13 種類(TEFが設定されているもの)です。いずれにしても、
- 75(PCDD)
- 135(PCDF)
- 12~13(コプラナーPCB)
のどの取り方をしても「PCDDが最も多い」ということはありえません。よって、選択肢1は誤り=これが正解肢です。
選択肢2
ダイオキシン類の排出量は、毒性等価係数を用いて算出した各異性体の毒性を足し合わせた毒性等量で表される。
これは 正しい 記述です。
- ダイオキシン類は、PCDD・PCDF・コプラナーPCBなど多数の異性体(コンジナー)からなりますが、毒性の強さがそれぞれ違うため、単純な「質量の合計」では毒性を比較できません。
- そこで、最も毒性の強い 2,3,7,8-TCDD の毒性を1とした「毒性等価係数(TEF)」 を各異性体に与え、「濃度 × TEF」を足し合わせた値を TEQ(毒性等量) として扱います。
環境省のダイオキシン類排出インベントリでも、「毒性が明らかになっている29種類のダイオキシン類について、2,3,7,8-TCDD の毒性を1として換算し、足し合わせた値(TEQ)」として排出量を表しています。
👉 よって、選択肢2は正しいです。
選択肢3
ダイオキシン類の2021(令和3)年の排出総量は、ダイオキシン類排出削減計画の目標量を下回っており、削減目標は達成されている。
これは 正しい 記述です。
環境省の「ダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)について」(令和3年結果)によると:
- 令和3年(2021年)の総排出量:98~100 g-TEQ/年
- このうち、削減計画で評価される「目標量に対する排出量」は 96 g-TEQ/年
- 一方、「ダイオキシン類削減目標量」(大気への排出のうち火葬場・自動車排ガス・たばこ煙を除く)は176 g-TEQ/年 とされています。
報道発表では、「令和3年の削減目標量に対する排出量は96 g-TEQ/年で、この目標量を下回っております。」と明記されており、削減目標は達成済みです。よって、選択肢3は正しいです。
選択肢4
POPs(残留性有機汚染物質)条約には、PCDD等非意図的生成物の排出削減等が記載されている。
これも 正しい です。
- ストックホルム条約(POPs条約)では、意図的製造の POPs(DDT、PCBなど)に加え、廃棄物焼却等で非意図的に生成される POPs(U-POPs:PCDD/PCDF、PCBなど)についても、削減・最小化・可能ならば廃絶を求めています。
- 特に PCDD/PCDF、PCB などが「非意図的生成 POPs」として条約附属書Cに掲げられ、各国は Article 5 に基づき、以下の3点を実行する義務があります。
- 発生源の特定
- 排出量インベントリの作成
- 削減戦略・行動計画の策定
👉 したがって、選択肢4は正しいです。
選択肢5
我が国のダイオキシン類削減計画の内容は、POPs条約に基づく国内実施計画に反映されている。
これも 正しい 記述です。
- 日本には、「事業活動に伴い排出されるダイオキシン類の量を削減するための計画」(いわゆるダイオキシン類削減計画)があります(ダイオキシン類対策特別措置法第33条に基づく)。
- 一方、POPs条約の国内実施計画(National Implementation Plan:NIP)の中で、
このダイオキシン類削減計画が、U-POPs対策として組み込まれていることが、環境省資料で明記されています。
たとえば SAICM(国際化学物質管理戦略)の国内実施計画では、「POPs条約に基づく国内実施計画は、
『Government Plan to Reduce Dioxin Levels Resulting from Business Activities in Japan(ダイオキシン類削減計画)』等を基礎としている」と示されており、POPs条約の NIP にこの削減計画が反映されていることがわかります。よって、選択肢5は正しいです。
問題を解くポイント
- 異性体数は「75・135・209」で覚える
- PCDD:75
- PCDF:135
- PCB:209
- TEF → TEQ の流れをセットで
- TEF:2,3,7,8-TCDD の毒性を1とした係数
- TEQ:濃度×TEFを足し合わせた毒性等量
- 日本のダイオキシン排出は目標176 g-TEQ/年を大きく下回っている
- 2021年:排出量 98~100 g-TEQ/年、評価値 96 g-TEQ/年
- 目標:176 g-TEQ/年
→ かなり余裕をもって達成している、とイメージしておきましょう。
- POPs条約と国内計画の接続をイメージ
- 条約:PCDD/PCDF/PCB など U-POPs の削減を要求
- 日本:ダイオキシン類削減計画+NIP(国内実施計画)でこれに対応という「国際条約 → 国内実施計画 → 個別削減計画」のつながりを押さえておくと、条約問題に強くなります。


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