
公害防止管理者の過去問|令和5年 公害総論 問9 問題と解説

問題9
水質汚濁の現状に関する記述として、誤っているものはどれか(環境省:令和2年度公共用水域水質測定結果及び令和2年度地下水質測定結果(概況調査)による)。
- 公共用水域において、健康項目であるカドミウムなどの環境基準達成率は、生活環境項目であるBOD又はCODの環境基準達成率よりも高い。
- 河川、湖沼、海域のうち、健康項目の環境基準達成率が最も高いのは、河川である。
- ひ素の環境基準達成率は、地下水よりも公共用水域のほうが高い。
- 河川のBOD環境基準達成率は、湖沼のCOD環境基準達成率よりも高い。
- 1974(昭和49)年度~2020(令和2)年度までの間に、湖沼のCOD環境基準達成率が海域のCOD環境基準達成率より高くなったことは、一度もなかった。
問題9の解答
正解は「2」です。
問題9の解説
この問題は、次の点を令和2年度の環境省データに即して正しく理解しているかを問うものです。
- 公共用水域の 健康項目(カドミウム・鉛・砒素など) の達成状況
- 生活環境項目(BOD・COD)の水域別達成率
- 地下水(概況調査)と公共用水域の比較
- 長期的な COD 達成率の「湖沼 vs 海域」
選択肢1
公共用水域において、健康項目であるカドミウムなどの環境基準達成率は、生活環境項目であるBOD又はCODの環境基準達成率よりも高い。
環境省「令和2年度公共用水域水質測定結果(報道発表)」によると、全国の公共用水域について
- 健康項目27項目の環境基準達成率:99.1%
- 生活環境項目のうち BOD または COD の達成率(類型指定水域)
- 河川(BOD):93.5%
- 湖沼(COD):49.7%
- 海域(COD):80.7%
従って、
- 健康項目(99.1%)
- BOD/COD(最大でも河川 93.5%)
となり、健康項目の方が達成率は明らかに高いことがわかります。
👉 選択肢1は 正しい 記述です。
選択肢2(これが誤り=正解)
河川、湖沼、海域のうち、健康項目の環境基準達成率が最も高いのは、河川である。
ここがポイントです。同じく「令和2年度公共用水域水質測定結果」の本文では、健康項目について次のように記載されています。
健康項目全体(27項目)の環境基準達成率は 99.1%。環境基準値の超過は、カドミウム、鉛、砒素、1,2-ジクロロエタン、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素の6項目について、のべ48地点 で見られ、水域群別では、河川が6項目のべ45地点、湖沼が2項目のべ3地点、海域については超過地点なし であった。
ここから分かること:
- 河川:超過「45地点」 → 達成率は 100% よりわずかに低い
- 湖沼:超過「3地点」 → 同じく 100%よりやや低い
- 海域:超過地点 0 → 測定された全地点で達成=達成率 100%
つまり、3水域の健康項目の達成率を比べると、「海域(100%) > 河川(100%未満)・湖沼(100%未満)」となり、「最も高い」のは 海域 です。「河川が最も高い」とする選択肢2は、データと矛盾しているため誤り です。
よって、本問で「誤っているもの」として選ぶべきは 2 になります。
選択肢3
ひ素の環境基準達成率は、地下水よりも公共用水域のほうが高い。
■ 公共用水域のひ素
前掲のとおり、公共用水域の健康項目全体の達成率は 99.1%であり、健康項目の超過は のべ48地点(カドミウム・鉛・砒素など6項目合計)にとどまっています。砒素単独で見ても、超過している地点はごく少数であり、公共用水域での砒素の達成率は 99%以上と推定されます。
■ 地下水のひ素(概況調査)
一方、「令和2年度地下水質測定結果(概況調査)」では、地下水の全体状況について、概況調査の全測定井戸のうち「何らかの項目で環境基準超過」があった井戸:5.9%(=達成率 94.1%)、項目別に見ると、硝酸性窒素・亜硝酸性窒素が超過率 3.3%で最も高く、砒素・ふっ素なども地下水での超過が継続的に確認されています。
地下水は、地質・地下水流動の影響を受けやすく、砒素・ふっ素・硝酸性窒素などが自然起源・人為起源のいずれでも上昇しやすいことが指摘されています。
したがって、地下水:砒素の超過率は公共用水域より「明らかに高い」、公共用水域:砒素超過はごく一部 → 達成率はほぼ 100%という関係にあり、「砒素の環境基準達成率は、地下水より公共用水域の方が高い」という記述は 妥当であり正しい と判断できます。
👉 選択肢3は 正しい。
選択肢4
河川のBOD環境基準達成率は、湖沼のCOD環境基準達成率よりも高い。
これは、同じく環境省の令和2年度公共用水域水質測定結果(報道発表)に明確に数値が出ています。
- 河川の BOD 達成率(類型指定水域):93.5%
- 湖沼の COD 達成率(類型指定水域):49.7%
したがって、93.5%(河川 BOD) > 49.7%(湖沼 COD)であり、「河川の方が高い」という選択肢4の記述は 正しい です。
選択肢5
1974(昭和49)年度~2020(令和2)年度までの間に、湖沼のCOD環境基準達成率が海域のCOD環境基準達成率より高くなったことは、一度もなかった。
環境省報告書の 表4「環境基準達成率の推移(BOD又はCOD)」 を見ると、昭和49年度(1974年度)以降、各年度における河川(BOD)の達成率、湖沼(COD)の達成率、海域(COD)の達成率が一覧されています。そこでは、次のような情報が読み取れます。
- 全期間を通じて、湖沼の COD 達成率が最も低く、河川>海域>湖沼 という順序
- 湖沼の COD の達成率が海域の COD を上回っている年は見られない
これは、報告書の本文中の解説とも整合します。例えば、「湖沼は閉鎖性の水域であり、汚濁物質が蓄積しやすいため、河川等に比べて環境基準の達成率が低い。」と記されており、湖沼のCOD達成率がもっとも低く推移してきたことが強調されています。
従って、「一度もなかった」という選択肢5は、長期データと整合し正しい と言えます。
問題を解くポイント
- 健康項目と生活環境項目の構図
- 健康項目:達成率はほぼ 100%(99%台)
- 生活環境項目(BOD/COD):水域によって達成率に大きな差
- 河川 ≫ 海域 > 湖沼
- 水域別の特性
- 河川:流れがあり、有機汚濁は改善が進み 90%超の達成率。
- 湖沼:閉鎖性が高く、有機汚濁(COD)・窒素・燐の改善が遅れ、達成率が低い。
- 海域:健康項目はほぼ全地点達成、CODも湖沼より高い達成率。
- 強い表現に注意
- 「最も高い」「一度もなかった」などの断定は、データで裏付けられるかを確認する。
- 本問では、「健康項目の達成率が最も高いのは河川」という表現が、実際には「海域の方が高い(=100%)」であるため、誤りと判断できる。
こうしたポイントを意識して環境省の統計表(特に報道発表の概要と本文中の表・グラフ)を読む習慣をつけると、統計系の問題にも強くなります。


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