
公害防止管理者の過去問|令和3年 水質概論 問10 問題と解説
問題10
金属の生体影響に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 重金属に暴露されると生合成されるメタロチオネインは、重金属の毒性を弱める働きをしている。
- 有害性金属が複合して生体内に作用する場合、それぞれの毒性が相加的、あるいは相乗的に現れることがあるが、逆に毒性が弱められることもある。
- 有機水銀は塩化水銀(Ⅱ)に比べて生物学的半減期が長いため、排泄されにくい。
- 無機水銀は血液-脳関門を容易に通過し、脳内に蓄積する。
- 総金属暴露量が同一量であっても、一時に多量暴露した場合と、少量ずつ長期間の暴露の場合とでは毒性の程度は異なる。
問題10の解答
正解は「4」です。
問題10の解説
この問題は、重金属の毒性メカニズムや代謝に関する記述の正誤を判定するものです。結論から申し上げますと、(4)の記述が「有機水銀」と「無機水銀」の特徴を取り違えており、誤りです。
なぜ(4)が誤りなのか?
水銀は、その化学形態によって体の中でたまる場所(標的臓器)が全く異なります。
- 有機水銀(メチル水銀など):脂溶性が高いため、血液脳関門(BBB)や胎盤を容易に通過します。その結果、脳(中枢神経)や胎児に蓄積し、神経障害(ハンター・ラッセル症候群など)を引き起こします。これが水俣病のメカニズムです。
- 無機水銀(塩化水銀など):水溶性であり、血液脳関門をほとんど通過できません。主に腎臓に蓄積し、腎障害を引き起こします。
したがって、選択肢(4)の「無機水銀は血液-脳関門を容易に通過し、脳内に蓄積する」という記述は、主語が「有機水銀」であれば正しいですが、「無機水銀」の説明としては誤りです。
その他の選択肢の確認
これらはすべて毒性学の基本として「正しい記述」です。
- (1) メタロチオネインの役割
- 体内にカドミウムや水銀などの有害金属が入ってくると、肝臓や腎臓で「メタロチオネイン」というタンパク質が作られます。これは金属と結合して、毒性を封じ込める(無毒化する)働きがあります。正しい記述です。
- (2) 複合影響(相加・相乗・拮抗)
- 複数の有害物質を同時に取り込んだ場合、毒性が足し算になる(相加)、掛け算のように強まる(相乗)だけでなく、お互いに打ち消し合って弱まる(拮抗:きっこう)こともあります。
- 例:カドミウムの毒性は、亜鉛が共存すると軽減される(拮抗作用)。正しい記述です。
- (3) 生物学的半減期
- 体に入った物質が半分になるまでの期間です。一般に、有機水銀(メチル水銀:約70日)の方が、組織との結合が強いため、無機水銀(約40日程度)よりも体内に留まりやすく、排泄されにくい傾向があります。正しい記述です。
- (5) 暴露量と時間
- 「総量が同じなら毒性も同じ」ではありません。「一度に大量(急性毒性)」と「少しずつ長期間(慢性毒性)」では、現れる症状が全く異なります。
- 例:お酒を一気飲みすると急性アルコール中毒になりますが、同じ量を1ヶ月かけて飲んでも中毒にはなりません(肝臓への負担は別として)。正しい記述です。
問題を解くポイント
この分野では、以下の「水銀の対比表」を頭に入れておくことが最強の対策です。
| 特徴 | 有機水銀(メチル水銀) | 無機水銀 |
| 主な発生源 | 魚介類(食物連鎖)、水俣病 | 工場排水、農薬(過去) |
| 体内への吸収 | 消化管からほぼ100%吸収 | 吸収されにくい(数%〜15%) |
| 通過性 | 血液脳関門・胎盤を通る | 通りにくい |
| 主な蓄積部位 | 脳(中枢神経)、胎児 | 腎臓 |
| 主な症状 | 感覚障害、視野狭窄(神経系) | 尿細管障害(腎臓系) |
「脳をやられるのが有機水銀(水俣病)」、「腎臓をやられるのが無機水銀」とシンプルに区別しておけば、この手の問題は即答できます。


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