
公害防止管理者の過去問|令和3年 公害総論 問15 問題と解説

問題15
ライフサイクルアセスメント(LCA)とその実施手順に関する記述として、誤っているものはどれか。
- LCAとは、製品システムのライフサイクル全体を通したインプット、アウトプット及び潜在的な環境影響のまとめ並びに評価のことである。
- LCAを実施する目的と範囲の設定が、LCAの第一ステップである。
- 第二ステップのインベントリ分析で用いられるインプットデータは、生産又は排出される製品・排出物に関するものである。
- 第三ステップでは、地球温暖化や資源消費などの各カテゴリーへの影響を定量的に評価する。
- 第四ステップでは、設定した目的に照らし、インベントリ分析やライフサイクル影響評価の結果を単独に又は総合して評価、解釈する。
問題15の解答
正解は「3」です。
問題15の解説
この問題は、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本概念と4つのステップを正しく理解しているかを問う問題です。ISO 14040/14044 や、環境省・国立環境研究所(NIES)などの解説と照らし合わせて、各選択肢の正誤を確認します。
LCA の全体像
環境省が紹介する LCA の定義(ISO14040 に基づく)では、LCA は次のように説明されています。
LCA は、製品やサービスの ライフサイクル全体における環境負荷の量を定量的に評価する手法 であり、「目的および調査範囲の設定」「インベントリ分析」「影響評価」「解釈」の4段階から構成されます。
国立環境研究所(NIES)の解説でも、同様に4段階(目的・範囲/インベントリ分析/影響評価/解釈)が示されています。この枠組みを前提に、各選択肢を検証します。
選択肢1→正しい
LCAとは、製品システムのライフサイクル全体を通したインプット、アウトプット及び潜在的な環境影響のまとめ並びに評価のことである。
ISO 14040 での LCA の説明(概要)は、要約すると次のような内容です。LCA とは、製品システムのライフサイクル全体にわたる 入力(インプット)・出力(アウトプット)および潜在的な環境影響をまとめ、評価する手法である。
選択肢1の表現は、この ISO の定義をほぼそのまま日本語で言い換えたものになっており、意味・内容ともに整合しています。よって、選択肢1は正しいです。
選択肢2→正しい
LCAを実施する目的と範囲の設定が、LCAの第一ステップである。
NIES の解説では、LCA の実施手順について、「目的及び調査範囲の設定」「インベントリ分析」「影響評価」「解釈」の4段階を説明しています。よって、「目的と範囲の設定が第1ステップ」は 正しい。
選択肢3→誤り:正解
第二ステップのインベントリ分析で用いられるインプットデータは、生産又は排出される製品・排出物に関するものである。
ここが誤りです。
インベントリ分析では、ライフサイクルの各段階における材料使用量、エネルギー消費量、環境負荷物質排出量、廃棄物量などに関する入力項目と出力項目のデータを収集し、計算します。
インベントリ分析で扱う 「インプットデータ」 は、原材料投入量、エネルギー使用量、水使用量など「システムに入ってくるもの」に関するデータです。
一方、製品として生産されるガス・廃水・廃棄物などの排出量などは、本来 アウトプット(出力データ) の側に分類されます。選択肢3では、インプットデータは、生産又は排出される製品・排出物に関するものと書かれており、インプット(入力)とアウトプット(出力)を取り違えている ため、LCAの用語として明確に誤りです。
選択肢4→正しい
第三ステップでは、地球温暖化や資源消費などの各カテゴリーへの影響を定量的に評価する。
NIES の解説では、第3ステップ=影響評価について、次のように説明されています。影響評価(LCIA)では、インベントリ分析で得られた結果をもとに、地球温暖化、酸性化、資源枯渇などの環境影響カテゴリごとに定量的に評価する。
また LCAの一般的な解説でも、LCI のデータから地球温暖化・資源消費・酸性雨・オゾン層破壊・富栄養化など各インパクトカテゴリへの寄与を評価すると説明されています。
選択肢5→正しい
第四ステップでは、設定した目的に照らし、インベントリ分析やライフサイクル影響評価の結果を単独に又は総合して評価、解釈する。
NIES の解説では、第4ステップ「解釈(interpretation)」について、以下のように説明されています。
解釈の段階では、目的及び調査範囲に照らして、インベントリ分析および影響評価の結果を評価し、
結論の導出や提言、改善ポイントの抽出などを行う。
すなわち、第1ステップで設定した「目的」に立ち返り、LCI(インベントリ)と LCIA(影響評価)の結果を単独に見たり、総合的に見たりしながら、意味づけ・結論・推奨を行うステージが「解釈」です。
選択肢5の記述は、まさにこの内容を日本語で自然にまとめたもので、表現・内容ともに妥当です。
よって、選択肢5は正しい。
問題を解くポイント
ポイント①:LCAの4ステップを順番と中身で覚える
- 第1:目的・範囲の設定(Goal & Scope)
- 第2:インベントリ分析(LCI)
- 第3:影響評価(LCIA)
- 第4:解釈(Interpretation)
この「順番+それぞれの役割」をセットで覚えておくことが重要です。
ポイント②:インプットとアウトプットを混同しない
- インプット:原材料、エネルギー、水など「入ってくるもの」
- アウトプット:製品、副産物、排ガス、廃水、廃棄物など「出ていくもの」
インベントリ分析では、「各段階における材料使用量・エネルギー消費量・排出量など 入力と出力の両方 を整理する」という考え方が基本です。今回の選択肢3のように「インプット=製品・排出物」と書かれていたら、違和感を持ってすぐチェックできるようにしておきましょう。
ポイント③:第三ステップは「気候変動」「資源枯渇」など“カテゴリ評価”のステージ
「CO₂ 排出○kg」などの LCI データを「地球温暖化ポテンシャル」「資源枯渇ポテンシャル」等に変換して評価するという流れをイメージしておくと、記憶に残りやすくなります。


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