
公害防止管理者の過去問|令和3年 大規模水質特論 問1 問題と解説
問題1
エスチュアリーにおける流動のモデル計算に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 海域の密度場は、水温と塩分から計算される。
- 流体は回転する粘性、非圧縮性流体として扱っている。
- 3次元的マルチレベルモデルでは、鉛直方向の速度成分は、水平方向の速度成分の結果から拡散方程式を用いて計算する。
- モデルの検証は、潮流楕円や水温、塩分等の観測結果との比較でなされる。
- 重力加速度やコリオリパラメータも考慮している。
問題1の解答
正解は「3」です。
問題1の解説
この問題は、エスチュアリー(河口域)で行う流れのシミュレーションが、どんな考え方で作られているかを問う問題です。特に重要なのは、「水が動く速さ(流速)を、どのルール(方程式)で決めているか」という点です。
結論から言うと、③は「鉛直方向の速さ(上下の動き)」の決め方を、根本的に取り違えているため、誤りとなります。
解答に至るまでのステップ
ステップ1 まず「モデル計算で何を計算しているのか」を整理する
エスチュアリーの流動モデルでは、水の動きを次のように分けて考えます。
- 水平方向の流れ(東西・南北)
- 鉛直方向の流れ(上向き・下向き)
- 水温・塩分(重さ=密度に関係)
- 水はどこから来て、どこへ行くか(水が増えたり減ったりしないか)
ここで非常に大切なのが、「水は勝手に増えたり減ったりしない」という大原則です。これを専門的には 「非圧縮性」「質量保存」 と言います。
ステップ2 鉛直方向の流れは「何から決まるのか」を考える
次に、「水が上下に動く速さ(鉛直速度)」が、どうやって決まるのかを考えます。
ここでの基本的な考え方は、とてもシンプルです。横にたくさん水が流れ込んできたら、どこかへ逃げないといけない。横に水が出ていったら、どこかから補われないといけない。この「逃げる・補う」動きが、上下の流れ(鉛直速度)です。
つまり、鉛直速度は水平方向の流れと「水は減らない」というルールから、自動的に決まるものなのです。この「水は減らない」というルールを、数式にしたものが連続の式(質量保存の式)です。
ステップ3 ③の文章が、なぜおかしいのかを確認する
③では、次のように書かれています。
鉛直方向の速度成分は、水平方向の速度成分の結果から拡散方程式を用いて計算する
ここが誤りです。
拡散方程式とは、本来、
- 熱が広がる
- 塩分が混ざる
- 速さのムラがなだらかになる
といった、「混ざり方」や「広がり方」を表すための式です。
つまり、
- 拡散方程式 → 混ざり方の計算
- 鉛直速度 → 水が上下に動く速さの計算
であり、役割がまったく違います。
上下の速さそのものを「拡散の式」で決める、という考え方は、実際の流動モデルでは採られていません。したがって③は誤りです。
ステップ4 他の選択肢が「自然な説明」であることを確認する
残りの選択肢は、すべて標準的なモデルの説明として自然です。
- ① 水の重さ(密度)は、水温と塩分で決まる
- ② 地球は回っているので、コリオリの影響を受ける流体として扱う
- ④ 計算結果は、潮流や水温・塩分の観測と比べて確かめる
- ⑤ 重力や地球の回転の影響も考える
どれも、「実際にモデルを作るなら当然そうする」という内容です。
問題のポイント
この問題で多くの人が混乱する理由は、「鉛直方向=拡散」というイメージを強く持っているからです。
確かに、鉛直方向では混合と拡散が重要な役割を持ちます。
しかし、それは水温・塩分・速さの“混ざり方”の話であって、 水が上下にどれだけ動くか(速度そのもの)の話ではありません。上下の速度は、まず「水は増えも減りもしない」というルールを守るために決まります。


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