公害防止管理者の仕事内容、平均年収、リアルな体験記を紹介【実録】

公害防止管理者の仕事内容、平均年収、リアルな体験記を紹介【実録】
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近年、企業活動と環境保全の両立がますます求められています。その最前線に立つのが「公害防止管理者」です。特に、公害防止管理者の仕事は、工場排水や下水処理施設などでは、水質汚濁防止法の遵守と現場の設備管理を担っている重要な立場です。

私自身も、公害防止管理者(水質区分)として現場に携わりました。この記事では、「水質」に特化して公害防止管理者の仕事内容や平均年収、そしてリアルな経験をもとに、仕事のやりがいと現実について紹介します。

目次

公害防止管理者とは?

公害防止管理者とは、工場や事業所で発生する排水や排ガス、騒音、振動などの環境負荷を抑え、法令などを遵守しながら企業活動を支える国家資格者です。

環境基本法や水質汚濁防止法、大気汚染防止法などの環境関連法令では、一定規模以上の事業所にこの資格者の配置を義務づけています。つまり、公害防止管理者がいなければ、事業を継続できないケースもあるのです

公害防止管理者の資格は水質や大気、騒音・振動、ダイオキシン類などの分野に分かれ、それぞれ資格区分と役割があります。上位資格ほど対象施設の範囲が広く、業務内容も高度になります。特に、水質関係は、製造業や化学工場、食品加工場など幅広い分野で求められるため、環境管理職の登竜門として認知されています。

私自身も水質関係の公害防止管理者を取得し、事業所では公害防止統括者と情報共有し、役割を果たしていました。資格取得後は、現場での判断や行政対応に関して責任者としての立場を任されることもありました。法律を守ることはもちろんですが、「企業が社会から信頼され続けるための技術者」であるという意識を持ち、日々の業務に取り組みました。

公害防止管理者(水質区分)の仕事内容

ここでは、水質関係の公害防止管理者の仕事内容について紹介します。主な仕事内容としては、次のとおりです。

  • その1 排水処理設備の運転管理
  • その2 法定記録・届出対応
  • その3 異常時の対応
  • その4 外部機関対応・社員教育

その1 排水処理設備の運転管理

第1に、排水処理設備の運転管理は、公害防止管理者にとって最も基本であると同時に最も重要な業務です。工場で使用した水には薬品や油分、金属など多様な汚濁物質が含まれます。これらをそのまま排出すれば、河川や海域に重大な影響を及ぼします。

したがって、排水を安全な状態に戻すことが公害防止管理者の使命です。

処理施設では、pH、COD、SSなどの項目を常時監視し、適正な水質を維持します。しかし、自動制御システムを備えていても、微妙な変化を察知し、調整するのは人の感覚と経験です。たとえば、pH値が少し高いと感じたら、薬品注入ポンプの流量を微調整し、反応槽の状況を見ながら中和剤の濃度を調整します。

現場では、安定して処理し放流することが最優先です。排水わずか1リットルの変化が、地域の信頼を左右するといっても過言ではありません。その責任の重さを常に感じながら、毎日、処理設備と向き合っているのです。

その2 法定記録・届出対応

第2に、法定記録の作成、保存と行政への届出対応です

水質汚濁防止法や下水道法では、測定結果を日々記録し、一定期間保存することが義務づけられています。特に行政監査やISO14001審査の際には、設備や記録の信頼性が評価対象となります。

記録には、排水のpH、SS、COD、窒素、りんなどの測定値のほか、異常発生時には行政への報告履歴や原因の追求、対応策検討、再発防止策などを明記します。これらの記録は、企業コンプライアンスの証として大変重要です。

私の職場では、電子化システムを導入してデータを自動集計していますが、最終チェックは人の手で行っています。なぜこの数値になったのか、原因は何なのかを説明できることが大切であり、単なる数字の羅列では意味がありません。

また、設備改造や更新、処理方法の変更を行う場合は、事前に行政へ届出も必要です。届出書類は、設備図面や処理能力、数値の根拠まで求められるため、正確な書類を作成することは、法的リスクを防ぎ、企業の責任が果たせます。

その3 異常時の対応

第3に、異常時の対応も重要な仕事です。新しい設備を整えていても、トラブルは必ず起こります。ポンプの故障、攪拌機の停止、薬剤の枯渇、停電、配管の漏れや詰まりなどです。このような事態が起きた際、公害防止管理者が冷静に判断し、指示するかが事業所全体の命運を分けます。

私の事業所では、ある日突然、排水処理装置出口のCOD計の指示が上昇し、警報の発信とともに装置が自動停止した事象がありました。原因はCOD計の薬品注入不良でしたが、放置すれば排水処理できず、事業所活動に支障を生じかねません。

私はすぐに排水を採取して手分析を実施した結果、COD計のトラブルと判断し、修理することで迅速に排水処理を復旧できました。原因調査、応急対応、行政への連絡まで、わずか1時間です。

異常の早期発見から対応まで迅速に行えたため、排水水質に問題なく処理でき、事業活動には影響を与えることはなかったのです。このとき痛感したのは、環境に対する社員の意識が非常時を救うということです。定期的に異常時訓練を行い、誰が、何を、どう動くかを共有しておくことが最善の備えになることを認識した出来事でした。

その4 外部機関対応・社員教育

第4に、公害防止管理者は、社内外の橋渡し役的な存在でもあります。行政機関、協力会社、地域住民との調整は欠かせません。

行政の立入検査では、過去1年分のデータ提出を求められ、質問も多岐にわたります。その際、丁寧で透明性のある対応をすれば、行政との信頼関係が築けます。反対に、曖昧な回答や記録の不備があれば、行政との信頼関係は薄れ、改善命令や立入強化につながることもあるのです。

また、社内教育も重要な仕事です。新人には排水処理の流れや薬品の特性、安全管理に至るまで教育することも公害防止管理者の大切な役割です。

私の経験では、排水処理設備の通常値を記録、把握することが異常を早期発見するためには大切だと考えています。設備の音や動き、排水の環境監視計器指示値や色、泡立ちの状態などです。これらを日々の点検で観察できるようになると、異常を事前に察知できるようになります。公害防止管理者は、現場の教師でもあり、技術と意識の両方を伝える責任があるのです。

公害防止管理者の平均年収(水質1~4種別)

公害防止管理者の平均年収は区分によっても違いがあります。ここでは、水質に限定して説明していきます。水質関係の公害防止管理者は、対象とする排水量や施設規模によって第1種~第4種に分類されます。

以下の表は、自治体・環境省資料および求人情報をもとにした目安です。なお、 年収は企業規模や業種、地域によって変動するため、参考としてご確認ください。

種別日当たりの排水量(㎥)有害物質排出施設業種年収の目安
第1種10,000以上あり・製造業(物品の加工業を  含む)・電気供給業・ガス供給業・熱供給業約650~800万円
第2種1,000以上10,000未満あり約500~650万円
第3種10,000以上なし約400~500万円
第4種1,000以上10,000未満なし約350~450万円

一般的に、第1種や第2種では、管理職クラスとしての役割が多く、行政対応や人材育成も任されます。一方の第3種や第4種は、運転管理や記録などの補佐的な業務が中心ですが、経験を積み、上位資格の取得によりステップアップが可能です。私の知る限りでも、第4種から第1種まで資格を取得し昇格した方が複数おり、努力が確実に評価される資格です。

公害防止管理者として働く魅力

水質関係の公害防止管理者の仕事内容や平均的な年収を見ていただいた所で、ここでは公害防止管理者として働く魅力について紹介します。

私が考える魅力は次のとおりです。

  • 社会に貢献している実感がある
  • 技術者としてのスキルが磨かれる
  • 定年後も活躍できる専門職

その1 社会に貢献している実感がある

公害防止管理者は、社会に貢献している実感があります。排水処理設備が安定して稼働していることが最大の成果であり、それが社会の安全につながっていると感じます。事故に気づかず海域を汚損するなどの対応遅れは、事業所として環境保全活動を全うしているとはいえません。そのため、毎日の業務に誇りと使命感が自然と芽生えます。

その2 技術者としてのスキルが磨かれる

公害防止管理者の仕事は、化学反応、生物学、機械工学など多方面の知識を活用する総合職です。排水処理設備の設計や改善提案に関わることもあり、経験を積むほどに応用力が高まります。また、分析結果から問題点を見抜く推察力も求められるため、技術者としての成長を実感できます。

その3 専門職として定年後も活躍できる

この資格は更新不要で、生涯有効です。さらに経験を積んだ人ほど、定年後も嘱託や顧問として引く手あまたの資格です。実際、私の周りでも70歳を超えてなお現場監査や教育担当として活躍されている方がいます。技術と経験があれば、年齢に関係なく必要とされる、それがこの資格の魅力です。

公害防止管理者のリアルな体験記

私の事業所では、運用の円滑化や設備保全のため、さまざまな薬品を取り扱っています。しかし、この薬品はポンプやタンクの不具合によって排水系統に流れ出すとやっかいなものに変わります。

私が環境設備を担当していた際も水質監視計器値が異常に上昇する事象があり、排水処理装置が一時停止するという不具合が度々ありました。計器と実測には差がないことが判明したため、排水処理装置に流入する系統に薬品が混入したため水質異常を示していると判断し、各薬品タンクやポンプを確認しました。

結果、薬品ポンプの安全弁からの漏れが見つかり、修繕したことで、排水水質は通常どおりに復旧した経験があります。この経験から、排水処理設備だけでなく、事業所内の排水系統を知ることの大切さを学び、後輩の指導に役立てました。

また、異常を感じ取る力は計器だけでは測れません。さまざまな原因でトラブルが発生することを職場内で共有することで、危機管理力が一層向上するのです。過去の教訓を活かし、判断を後回しにしないことを肝に銘じた出来事でした。

まとめ:環境保全に不可欠な仕事

公害防止管理者は派手さこそありませんが、企業と地域社会を支える重要な職種です。管理者としての使命を全うすることが、地域の安心と安全を守り、ひいては企業の信頼にもつながっていきます。今後、環境規制はさらに厳しくなると予想され、専門人材の需要は高まる一方です。人知れず環境を守るという誇りを胸に、今日も現場を支える、それが公害防止管理者という職務の真の姿だと私は思っています。

本記事の執筆者

平 泰行

ライター
公害防止管理者(水質)の有資格者。大手電力会社で40年、環境と化学の分野で発電プラントの運用や保守、環境保全の分野で尽力しました。環境保全の面では、発電所として各法律や規制、自治体との協定などを確実に遵守しながら、地域共生を目指し、取り組んでいます。
環境保全 水質管理 技術記事執筆
最終更新:
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本記事の監修者

1990 年生まれ。慶応義塾大学福澤諭吉文明塾 CP7期生。公共法政策修士(東北大学)。 研究分野はレジリエンスの社会政策。2017年より東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授として福島復興の研究及び環境回復・経済復興・心の復興に係るプロジェクトに携わる。2019年より独立し、オウンドメディアの開発・運用、データ解析、SEO対策などマーケティングに関わるサービスをワンストップで提供。バンタンクリエイターアカデミー、KADOKAWAドワンゴ情報工科学院の講師。福島県総合計画審議委員会の審議員を歴任。

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