野焼きの死亡事故事例と安全性を担保するために守るべきこと

野焼きの死亡事故事例と安全性を担保するために守るべきこと
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野焼きは安全管理を怠ると命を落とす事故を引き起こします。どんなに慣れていたとしても、天候などの予想外な影響により、消化不能な火事に発展するおそれがある以上、専門家の指導を受けずに野焼きを行うのは危険な行為と言わざるを得ません。

本記事では、日本各地で起きた野焼きによる死亡事故の実例と、事故を招く危険な要因、安全性を確保するための具体策を解説します。野焼きの危険性を知ることで少しでも事故数を減らすことができれば幸いです。

目次

野焼きの死亡事故事例

実のところ、野焼きによる死亡事故は過去に起きています。なかには、高齢の農作業者が巻き込まれるケースもあるため、注意が必要です。ここでは、具体的な死亡事故の事例を3件、紹介していきます。

その1 三重県伊賀市の事例

2025年3月、三重県伊賀市の畑で野焼き中とみられる火事が発生しました

残念なことに、畑を管理していた81歳の男性が焼け跡で倒れているのが見つかり、その場で死亡が確認されています。男性は当日、「畑に行ってくる」と家族に告げて一人で向かったようです。警察は野焼き中に火に巻き込まれた可能性高いと洞察しています。

おそらく、単独で広範囲の野焼きを実行したことで消化が間に合わず、逃げられなくなってしまったことが事故の原因であると考えられます。

その2 長野県木曽町の事例

2025年4月、長野県木曽町の河川敷で地元住民が害虫駆除のため下草の野焼きを行なっていたところ、80歳の男性が着ていた衣服に火が燃え移ったことで重傷の火傷を負い、搬送先の病院で亡くなりました。

先の事例とは違い、複数人で野焼きの作業を行なっていたものの、一時的に火に囲まれて逃げ遅れてしまったことが死亡の要因であると推察されます。

野焼きでは、火勢や風向きの変化により一瞬で危険な状況に陥ることもあります。人数というよりも、火のリスクを適切に管理できる人がいなければ、大規模な事故が発生するおそれがあるのです。

その3 静岡県御殿場市の事例

2010年3月、静岡県御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場で行われた野焼き作業中に突風が発生し、炎が作業員を襲う事故がありました

この事故では、ボランティア参加の男性3人が強風にあおられた火に巻き込まれて死亡しており、安全対策の不備が指摘されました。

この惨事を受け、以降の演習場での野焼きでは風速や湿度を厳重に測定するなど、安全管理が大幅に強化されています。大規模作業であっても、気象条件の急変による悲劇が起こり得ることを示した事例です。

事故を起こす危険な野焼きの特徴

野焼きによる事故には共通する危険なパターンが存在します。

ここでは、特に注意すべき3つの特徴について説明します。

特徴1 単独での野焼き作業

第1に、一人きりで野焼きを行うことは非常に危険です。万一火勢が強まった際に、単独では適切な消火措置や緊急連絡が取れず、逃げ遅れるリスクが高まります。

実際、農林水産省の調査でも農作業死亡事故の半数以上は一人作業中に発生しており、野焼き事故でも被害者が単独で作業していた例が多々報告されています。

グループで行う予定だった野焼きを「自分だけで大丈夫」と油断して一人で実施し、誰の助けも得られないまま火に巻き込まれるケースもあります。

野焼きは必ず複数人で行い、周囲に見守り役を配置することが基本です。

特徴2 強風・乾燥など不適切な気象条件

第2に、風の強い日や空気が極度に乾燥した状態での野焼きも事故につながりやすい要因です。風があると炎や火の粉が飛び火して急速に延焼範囲が拡大し、制御不能に陥りやすくなります。

消防当局も「乾燥注意報や強風注意報が出ている際は火気の取り扱いを控えてほしい」と警告を発しており、従来と同じ感覚で火を扱うことの危険性を強調しています。

乾燥・強風下では火が消えたように見えても再燃する恐れが高まるため、野焼き日は天候を慎重に選び、多少でも風がある日は中止する決断が重要です。

特徴3 火炎への備え不足

第3に、火に対する十分な備えがないまま野焼きを行う点も、事故を招く大きな特徴です

具体的には、燃えやすい化学繊維の普段着で作業して衣服に引火し重度の火傷を負う例や、消火用の水や消火器を準備しておらず初期消火に手間取って被害を拡大させる例が見られます。前述の長野県の事例でも、被害者の衣服に火が燃え移ったことが致命傷となりました。

綿など難燃性の作業着や保護具の着用を怠ると、自身が「可燃物」となってしまうのです。また、準備不足のまま火を点けると、万一の延焼時に消火する手段がなく逃げるしかなくなります。野焼き時には防火着や革手袋を着用し、消火用水やたたき棒を用意しておくことが不可欠です。

野焼きの安全性を担保するために守るべきこと

野焼きを安全に行うには、事前準備から作業中・終了後まで一貫した安全対策の遵守が求められます。最後に、野焼きの安全性を担保するために特に守るべきポイント3点を説明します。

その1 事前の周到な準備

はじめに、野焼きを始める前に、燃え広がりを防ぐための対策と所定の手続きを済ませておきます。

具体的には、燃焼区域の周囲に雑草や可燃物を取り除いた幅広い緩衝帯を設け、必要に応じてあぜ道を耕すなどして延焼を食い止める線を作ります。

緩衝帯の例

また、各自治体の条例に従い所轄の消防署へ野焼きの実施日時・場所を事前届け出し、許可や指示を仰ぐことも重要です。当日の気象条件にも注意が必要で、風が強い日や乾燥注意報発令時は計画を延期してください。無理な実施は事故の元になるので注意しましょう。

さらに、作業者自身の装備も万全にしましょう。綿や難燃素材の作業着・軍手・長靴を身につけ、袖口や裾は締めて火が入り込まないようにします。ライターや携行缶など引火しやすい物の携帯は避け、万一に備え携帯電話で緊急通報できる状態を確保しておきます。

これらの準備を徹底することで、野焼きによる火災リスクを大幅に低減できます。

その2 作業中の監視と初期対応

続いて、野焼きの作業中は気を緩めず、安全確保に努めます。

必ず複数人で協力し、監視役を配置して火の状況を絶えず見守りましょう。火を点ける範囲は一度に広くし過ぎず、小区画ごとに少しずつ焼却することで火勢をコントロールします。

延焼防止のために消火用具を準備・待機させておくことも不可欠です。水を満たしたバケツやホース、消火器などを手元に置き、いつでも消火できるようにします。

また、風向きや火の勢いに変化があれば作業を中断し、迷わず火を消し止めてください。燃焼中は決してその場を離れず、他の作業に気を取られないよう徹底します。炎や煙の状況は刻一刻と変わるため、「これくらい大丈夫だろう」と油断せず緊張感を持って監視を続けることが大切です。

その3 万一の緊急対応と後始末

最後に、もし火勢が制御不能な状況に陥った場合は、自身の安全を最優先に速やかに避難し119番通報します。無理に一人で消火しようとして負傷・死亡するケースが全国で後を絶たないため、危険を感じたら躊躇なく退避する判断が必要です。

近隣に協力を求めつつ、消防隊が来るまで安全な距離から延焼拡大を防ぐよう努めます。また、衣服に火が燃え移った場合はパニックにならず、その場で立ち止まってから地面に倒れ、転がって身体についた火を消すことを覚えておきましょう。

顔を手で覆いながら転がれば、短時間で衣服火災を鎮火できます。野焼き作業が完了した後は、消し炭やくすぶりが残っていないかを入念に確認し、完全に消火してから現場を離れます。地中に残った火種が後から風で煽られて再燃する事例もあるため、焼却後の散水・攪拌など後始末まで含めてが野焼き作業だと心得ましょう。

以上の安全策を遵守しつつも、可能であれば「焼かない選択」を検討することも推奨されます。農林水産省も野焼きはできるだけ行わず他の手段で代替するよう呼びかけており、安全確保が困難な場合は無理に火を使わない判断も大切です。

まとめ

野焼きは農地管理上のメリットがある一方で、一歩間違えば人命を奪う重大事故につながる危険な行為です。今回紹介した死亡事故事例からは、「一人で行わない」「風の強い日は行わない」「防火装備と消火準備を怠らない」という基本原則を守ることの重要性が浮き彫りになりました。

高齢者を含む作業者自身の安全を守るため、事前準備から作業中・終了後まで徹底した注意が求められます。地域の消防署や自治体も野焼きの届出制や安全指導を行っていますので、ルールに沿って計画的に実施してください。

「火を扱う以上、常に最悪の事態を想定する」くらいの慎重さで臨むことが、野焼きを安全に行う最大の秘訣です。適切な対策を講じて野焼きを行い、貴重な命と財産を火災から守りましょう。

参考文献

  • 農研機構「意外と多い野焼きによる事故」(農作業安全情報センター コラム, 2022年)[オンライン]2025年11月5日取得, https://www.naro.go.jp/org/iam/anzenweb/column/R4/4.html
  • 名古屋テレビ(メ~テレ)「野焼きの火に巻き込まれたか 畑2000平方メートルを焼く火事 81歳の男性が死亡 三重・伊賀市」(ニュース, 2025年3月1日)[オンライン]2025年11月5日取得, https://www.nagoyatv.com/news/?id=028974
  • 信越放送/TBS NEWS DIG「野焼きの火が服に燃え移り重いやけど 治療中の80歳男性が死亡 仲間と害虫駆除の作業中【長野・木曽町】」(ニュース, 2025年4月15日)[オンライン]2025年11月5日取得, https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1856545
  • 静岡放送/SBS NEWS「陸上自衛隊東富士演習場で野焼き作業 2010年の死亡事故受け毎年安全対策を徹底」(ニュース, 2025年2月1日)[オンライン]2025年11月5日取得, https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/1703611
  • 両丹日日新聞「野焼きで死亡3件 ‘これまでと違う’火災に市消防本部が緊急警告 猛暑で草木が異常乾燥し拡大」(ニュース, 2025年8月1日)[オンライン]2025年11月5日取得, https://www.ryoutan.co.jp/articles/2025/08/97817/
  • 農林水産省「農作業事故の要因と対策に関する報告書」(令和3年度, 2021年)[オンライン]2025年11月5日取得, https://www.maff.go.jp/j/kanbo/sagyou_anzen/attach/pdf/itaku-12.pdf
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本記事の監修者

1990 年生まれ。慶応義塾大学福澤諭吉文明塾 CP7期生。公共法政策修士(東北大学)。 研究分野はレジリエンスの社会政策。2017年より東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授として福島復興の研究及び環境回復・経済復興・心の復興に係るプロジェクトに携わる。2019年より独立し、オウンドメディアの開発・運用、データ解析、SEO対策などマーケティングに関わるサービスをワンストップで提供。バンタンクリエイターアカデミー、KADOKAWAドワンゴ情報工科学院の講師。福島県総合計画審議委員会の審議員を歴任。

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