総務省が公開している「令和2年度公害苦情調査結果報告書」を見ると、「焼却(野焼き)」による苦情が15,987件(19.6%)と発生原因の中で最も多くなっています。そのことからも、きっと日本全国で近所の野焼きに悩んでいる人たちもたくさんいるはずです。
この記事では、「野焼きをやめさせるにはどうすればよい?」と言う疑問について考察しています。また、通報先や逆恨みされるリスクにも言及しているので、野焼きの問題に悩んでいる人たちは参考にしてみてください。
野焼きとは?
野焼きとは、適法な焼却施設以外で廃棄物を燃やす違法行為です。「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第16条の2」で原則として禁止されています。例えば、家庭から出たゴミを庭でドラム缶やブロック等で作った簡易焼却炉で燃やすのは、立派な野焼きに該当します。
(焼却禁止)
e-GOVより引用
第十六条の二 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
一 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
二 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの
一昔前まで野焼きは違法行為ではありませんでしたが、悪臭や煙による近隣住民とのトラブルに加えて、ダイオキシンなどの有害物質を発生させるおそれがあることから、人の健康に対して悪影響をもたらす危険な行為として現在は禁止されています。
ただし、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」の第14条では、野焼きが例外的に認められるケースを次のように示しています。
第十四条 法第十六条の二第三号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
e-govより引用
一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの
けれども、これらの項目が例外的に認められているとはいえ、好き勝手に野焼きをしてよいわけではありません。例えば、東京都あきる野市では、例外的に位置付けられる野焼きの配慮事項として、次のような項目をサイト上に掲載しています。
あきる野市公式サイトより引用
- 風向きや時間帯、焼却前に近隣住民に知らせる等、周辺環境に最大限の配慮してください。
- 燃やすものをよく乾燥させ、少量ずつ短時間で焼却する等、煙や臭いが少なくなる工夫をしてください。
- 近隣住民等から苦情があった時は、焼却行為を中止していただく場合があります。あきる野市の環境を守るため、ご理解ご協力をお願いします。
野焼きをやめさせるにはどうすればよい?
それにもかかわらず、昔の名残で今でも野焼きを行う人がいるのも事実です。被害を受けている人からすればたまったもんじゃないわけですが、野焼きをやめさせるには具体的にどうすればよいのでしょう?
ここでは、3つの対処法を紹介していきます。
方法1 注意喚起のチラシを送付する
第1に、野焼きが違法行為であることに気づいていない人もいるため、まずは丁寧な注意書きを送付するという手段があります。実際、総務省が公開している『座談会「野焼きに関する諸問題と対応等」』を見ると、野焼きの原因として違法であることを知らない人たちの存在に焦点が当てられています。
利光 大分市が産業廃棄物の野焼きの原因者に話を聞いた結果では、廃棄物処理法による規制についての認識がある人とそうでない人の割合が半々程度でした。廃棄物処理法の認識のない方には、法律の趣旨、目的といったものをお話しし、行政指導によって再発を防ぐことができているケースも多々ございました。ただ、コストの話というのも、現実には事例の中にはあると思っております。
総務省より引用
したがって、本人に違法であることを伝えるのが最もライトな解決策です。具体的には、次のようなチラシをコンビニ等で印刷して、ポストに投函してみましょう。
ささやかな協力で恐縮ですが、上記のチラシデータは無料で提供しているので、必要な方はご利用ください。もしよければ、使ってみた効果や感想などコメントでいただけると幸いです。
注意する側としては「野焼きは違法だ!」と本人を責めたいところですが、初手としては相手が受け入れやすい言葉を選んだ方が得策です。伝え方を丁寧にするだけでわかってくれる人も現実には存在します。責めるのは悪意があることがはっきりした時だけにしましょう。
方法2 警察や行政に相談する
第2に、優しく注意しても聞く耳を持たないようであれば、警察や行政に相談しましょう。
個人で注意するよりも公権力に動いてもらった方が安全かつ野焼きを現実的に防止できる可能性が高いと考えられます。特に、「これまで大丈夫だったんだから問題ないだろう」と注意喚起を軽視している人にとって、「警察が動く」というのは強いプレッシャーになるはずです。
ただし、第三者の力を借りるためには、野焼きの事実を証明する必要があります。その意味では、後から相談するのではなく、今まさに野焼きが行われている時に通報することを推奨します。加えて、被害を受けているご近所さんと一緒に通報することで事実を客観的に示しやすくなるでしょう。
繰り返しになりますが、野焼きは原則として違法行為です。放置していると、さまざまな健康問題に発展するおそれがあることから決して我慢すべき事柄ではありません。
方法3 他の処分方法を案内する
第3に、野焼き以外の処分方法を案内するのも選択肢の一つです。
例えば、近年では家庭ごみを堆肥化するための安価なコンポストやごみ処理施設への持ち込みなど野焼き以外にも経済的に処分できる方法はあります。ただ禁止だけ伝えるよりも代替案を具体的に提示することでやめてもらえる可能性は少なからずあるでしょう。
とはいえ、これまで野焼きを当たり前に実施していた人たちからすると、ゴミを処理するのにお金がかかるようになるため、難色を示すことがあるのが実態です。
法律で禁止されているからやめるべきなのは当然ですが、「ゴミを処理するのにお金をかけたくない」という心理はやめない理由の一つになっているはずです。その意味では、野焼きに代わる別な経済的な方法がない限り、強制力を駆使しないと止めるのは難しいと考えられるのです。
野焼きの通報先
野焼きを見つけたときは、まずは自分と周囲の安全を確保することを最優先しましょう。そのうえで、野焼きの通報先は以下の通りです。
| 区分 | 通報先 | 通報内容・目的 | 通報方法 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 火災・延焼の危険がある場合 | 消防(119) | 火が広がる恐れがある、煙が強いなど、緊急性が高い場合 | 電話(119番) | 位置・状況を正確に伝える。安全な場所から通報。 |
| 緊急性はないが野焼きを確認した場合 | 市区町村の環境課 | 野焼き・不法焼却の通報、行政指導を依頼 | 電話・メール・LINE(自治体による) | 廃棄物処理法に基づき行政指導を実施。匿名通報も可。 |
| 繰り返し行われている、改善されない場合 | 消防署(非緊急窓口) | 現場確認や関係部署への情報共有を依頼 | 電話(地域の消防署) | 火災予防条例違反として対応することもある。 |
| 悪質な不法焼却・廃棄物処理法違反が疑われる場合 | 警察(110または最寄り交番) | 違法行為としての通報。刑事罰の可能性がある場合 | 電話(110番)または直接相談 | 「ごみを屋外で焼却している。違法と思われる」と明確に伝える。 |
| 健康被害・悪臭・煙の苦情 | 保健所または環境センター | 住民の健康被害・悪臭苦情の相談 | 電話または相談窓口 | 医学的観点からの助言や行政連携が可能。 |
火の勢いが強くて延焼の危険がある場合は119番通報を行い、消防に現場出動を依頼してください。危険が差し迫っていない場合でも、野焼きは廃棄物処理法で原則禁止されており、罰則の対象となるため、自治体や警察への通報が必要です。
通報の際は、できる範囲で現場の情報を正確に記録します。日時、場所、燃やしているものの種類、煙の色・量・におい、風向き、近隣への影響をメモし、可能であればスマートフォンで写真や動画を撮影します。ただし、近づきすぎたり相手を撮影してトラブルになることは避けてください。記録ができたら、まずは市区町村の環境課や消防署の非緊急ダイヤルに連絡します。冷静に、「○月○日○時ごろ、○○町○丁目付近でごみを燃やしており、煙が広がっています」と簡潔に伝えましょう。
繰り返し行われている場合や、行政の指導でも改善が見られない場合は、警察への通報も検討します。廃棄物処理法違反や火災の恐れがある場合、警察が現場確認や警告を行うことができます。警察に連絡する際は、「廃棄物を野外で焼却しており、危険で違法と思われる」と明確に伝えましょう。
通報後は、通報日時・担当者名・対応内容を記録しておくと安心です。数日経っても改善がない場合は、再度行政や警察に報告します。野焼きの通報は「他人を責める行為」ではなく、地域の安全と環境を守るための大切な行動です。冷静に記録し、正しい手順で通報することが、火災の未然防止と住民の安心につながります。
野焼きを通報したら逆恨みされるリスクはある?
残念ながら、本人に野焼きを通報したことがバレた場合、逆恨みされる可能性はないとは決して言い切れません。
現実社会では、法律によって定められている社会正義が必ずしも通用しない相手もいます。なかには、法律で「野焼き」が規制される前までは当たり前に行われていたことだっため、「納得できない」と思っている人もいるかもしれません。
だからこそ、本人に直接注意するのはやめたほうが得策です。実際、野焼きの事情聴取を実施した警察官が殴られるという事件も過去に発生しています。

理屈が通じる相手なら法律で禁止されていることがわかれば野焼きを辞めるはずです。それにも関わらず、野焼きを続けるのは自分に都合が良いように状況を解釈する傾向を持っている可能性があるので、正しいことをしている側が恨まれるという悲劇も起こり得るのです。
全国的な問題になっている
廃棄物焼却炉の規制が強化されてから20年以上が経過しているにもかかわらず、日本全国で違法な野焼きがなくならない現状は、この問題の根深さを物語っています。
「知らなかった」「昔からやっているだけ」と言う人もいますが、これまでに各自治体がチラシや広報誌、回覧板などで注意喚起が実施されている可能性を考えると、単なる認識不足だけでは説明できないように思います。すなわち、処分の手間や費用、地域の慣習といった事情が背景にあり、個人の善意や近隣の注意だけでは解決しにくいのが実情なのではないでしょうか。
そのため、野焼きを止めるためには、行政・警察・地域住民が一体となって取り組む仕組みが必要です。行政は、実態を把握しやすい通報体制や廃棄物処理の支援制度を整備し、警察は悪質・常習的な違法焼却に対して厳正に対処することが求められます。また、地域では「燃やさない処理方法」の普及や共同の回収拠点づくりなど、現場に即した代替策を進めることが重要です。
つまり、野焼き問題の解決には、「知らなかった」では済まされない社会全体の責任として、法の遵守と環境保全の意識を共有し、行政・警察・住民がそれぞれの役割を果たしていくことが必要なのです。



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